Vol.13
このコーナーでは、はるこ先生が漢字にまつわるさまざまな話題を皆様にご紹介します。
6月11日は、雑節(ざっせつ。五節句・二十四節気以外の、季節の移り変わりの目安となる日)で「入梅(にゅうばい)」、つまり梅雨入りにあたります。
二十四節気(にじゅうしせっき)は、太陽の運行(太陽黄経)をもとに、節分を基準に1年を24等分して約15日ごとに分けた季節のことです。全体を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けて、1ヶ月の前半を節気(せっき)、後半を中気(ちゅうき)とし、交互に配しています。また、二十四節気を補う季節の移り変わりの目安として雑節(ざっせつ)が設けられています。
月の運行をもとにした太陰暦は、暦と四季の周期にずれが生じてしまいますが、太陽の運行をもとにした二十四節気は、四季とのずれがあまりないため、農耕などの目安として使われていました。
参考までに、五節句、二十四節気、雑節を一覧にしてみました。カッコ内は太陽黄経と2013年の日付です。
季節 | 月(旧暦) | 節 | 中 | 節句、雑節 |
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春 | 正月 | 立春(315°、2月4日) | 雨水(330°、2月18日) | 節分(2月3日。立春の前日) |
二月 | 啓蟄(345°、3月5日) | 春分(0°、3月20日) | 上巳の節句(3月3日) 彼岸(春分の前後7日間) | |
三月 | 清明(15°、4月5日) | 穀雨(30°、4月20日) | ||
夏 | 四月 | 立夏(45°、5月5日) | 小満(60°、5月21日) | 八十八夜(5月2日。立春から88日目) 端午の節句(5月5日) |
五月 | 芒種(75°、6月5日) | 夏至(90°、6月21日) | 入梅(6月11日。芒種のあとの壬の日) | |
六月 | 小暑(105°、7月7日) | 大暑(120°、7月23日) | 半夏生(7月2日。夏至から11日目) 七夕の節句(7月7日) 土用(立夏の前18日間) | |
秋 | 七月 | 立秋(135°、8月7日) | 処暑(150°、8月23日) | |
八月 | 白露(165°、9月7日) | 秋分(180°、9月23日) | 二百十日(9月1日。立春から210日目) 重陽の節句(9月9日) | |
九月 | 寒露(195°、10月8日) | 霜降(210°、10月23日) | ||
冬 | 十月 | 立冬(225°、11月7日) | 小雪(240°、11月22日) | |
十一月 | 大雪(255°、12月7日) | 冬至(270°、12月22日) | ||
十二月 | 小寒(285°、1月5日) | 大寒(300°、1月20日) | 人日の節句(1月7日) |
五節句については、清少納言も絶賛!端午の節句|漢字探検隊 Vol.10もあわせてご覧ください。
さて、「梅雨」の由来は、中国で湿度が高くカビの生えやすい時期を「黴雨(ばいう)」と読んでいたという説や、梅の実が熟す時期だからという説など、諸説あるようです。また、「梅雨」を「つゆ」と呼ぶようになったのは、江戸時代に入ってからのことだそうです。
「梅雨」という言葉は中国から伝わったようですが、日本では、梅雨の季節が旧暦の5月ごろにあたるため、「五月雨(さみだれ)」とも呼んでいました。「さみだれ」の「さ」は、「皐月(さつき)」や「早苗(さなえ)」「早乙女(さおとめ)」と同じ語源で、稲作にまつわる古語です。「みだれ」は「水垂れ」で雨のことです。
「五月雨」は、和歌では乱れるという意味の「さ乱れ」にかけて詠まれることが多く、「五月雨(さみだ)る」と動詞としても使われていました。
おほかたに さみだるるとや 思ふらむ 君恋ひわたる 今日のながめを (『和泉式部日記』より)
現代語訳:あなたはごく普通に五月雨が降っているとお思いでしょうが、実はあなたを思い続けている私の涙が、今日の長雨になっているのですよ。
雨の降り続く様子と、なかなか逢えない相手への思いで心をかき乱されている切なさが「さみだるる」にこめられています。
また、連日降り続く雨をあらわす「長雨(ながあめ、ながめ)」は「眺め」(景色)にかけて詠まれています。
梅雨にまつわる物語として思い浮かぶのが、『源氏物語』の第2帖「帚木(ははきぎ)」内で語られる女性談義。いわゆる「雨夜の品定め」ではないでしょうか。
光源氏が17歳になった、ある五月雨が続く夜、宮中の宿直所にて光源氏に対して頭中将が理想の女性像について語っているところに、恋愛経験の豊富な左馬頭と藤式部丞も加わり、それぞれが体験談を交えて熱弁を奮います。
源氏は、藤壺への禁断の愛を胸に秘めつつ、彼らの話を聞いているのですが、ここで語られるエピソードがその後の光源氏の恋愛模様を示唆しており、源氏物語を解釈する上で重要な存在とされています。
平安の世に生きる男性がどんな恋愛感を持っていたのか……そこには、現代と変わらぬ恋模様が生き生きと描かれています。
ぜひ『源氏物語』を原文や現代語訳で読んでみてください!