Vol.6.5
和泉司 × 赤松美和子
超漢字マガジンインタビュー「東アジア100の歴史がわかる国、台湾――もう一つの漢字圏 台湾の文学」(Vol.5,Vol.6)はいかがでしたか? 対談を読まれて、台湾文学に興味をもたれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、今回は「番外編」として、お二方に、日本で読める台湾の文学をご紹介いただきます。
⇒インタビュー 前編
⇒インタビュー 後編
中国語、台湾語が読めなくても大丈夫。日本では100冊以上の台湾文学が翻訳出版されています。
今回は、本屋さんで取り寄せ購入可能な台湾文学の中から、夢中になれる時間と、読後に新しい台湾と新しい自分との出会いをプレゼントしてくれるお奨めの五冊を紹介いたします。
1949年、共産党に敗れた国民党とその家族200万人が台湾に渡った。ほんの一時の滞在のつもりで。あれから60年、彼らは、台湾で「外省人」と呼ばれて生きていくことになる。別れたあの瞬間を何度も思い出しながら。様々な思いを抱えながら台湾に生きてきた人々の引き裂かれた人生、心に秘めてきた思いが大河のように流れ込んだ歴史ノンフィクション。2009年に台湾で出版され、大ベストセラーに。中国では禁書。
(白水社、2012年、2800円)
夜市で働く少女は作家になった。借金返済のために夜市の露天商となった両親を支えることになった少女、母の売春、父からの性的虐待……、レズビアンのヒロインは、傷つき失われそうだった少女時代の記憶を、四人の恋人たちに語り、書き留めることで取戻し、自らのアイデンティティの根源にたどり着く。少女の心を至近距離で感じずにはいられない繊細で率直な描写に引き込まれる。作家陳雪の自伝的小説。
(現代企画室、2011年、2310円)
クィア×SF小説。2100年、人類は紫外線の猛攻撃から逃れるために海底に撤退。ヒロインの黙黙(MOMO)は、その海底都市「新台湾」に暮らす引きこもりのエステティシャン。30歳の誕生日に、20年間音信不通だった「マクロハード」幹部の母親と会うことに。盗み見た母親のPCの記録と自分の記憶を頼りに黙黙の秘密が明らかになっていく。感じさせ、考えさせ、そして鮮やかに転覆される。台湾文学のレベルの高さを感じさせる一冊。
(作品社、2008年、2520円)
ヒロイン朱影紅は、台湾の古都の一つ鹿港の名門朱家の令嬢。不動産王林西庚との恋愛と少女時代に父と過ごした先祖伝来の庭園での思い出を交錯させながら、本省人女性の視点からの台湾の歴史を書いた恋愛小説。経済成長著しく民主化に燃えた戒厳令直後の台湾の熱さと、亜熱帯の生命力に溢れた植物の美しさが感じられる。
(国書刊行会、1999年、2940円)
台湾を舞台とした七つの短篇集。
国民党と共に台湾に渡り台湾に生きた外省人第一世代を、第二世代の目から戯画化した「将軍の記念碑」(張大春)。結婚を急かされるヒロインが時間売買をしているタクシー運転手に出会うSF小説「ノクターン」(張系国)。アメリカに舞台を借りて台湾社会をパロディ化した「奇跡の台湾」(平路)。上海で活躍したショーガールが過去の栄光や恋を抱えながら、戦後の台湾を生き抜いていく「最後の夜」(白先勇)などハイブリッドな台湾を存分に味わえる七つの物語。
(国書刊行会、1999年、2100円)
なお、日本で読める台湾文学一覧については、『台湾文学と文学キャンプ』付録「日本における台湾文学出版目録」をご参照ください。
反共教育の一環として始まった文学キャンプが民主化の進む今日まで続いているのは何故? ネット検索から始めて、関係者200名への取材、参加体験、作品分析を通して読み解く。
(東方書店、2012年、3360円)
次ページでは、和泉司先生のご専門である、日本統治期の台湾に関連する日本語文学をご紹介いただきます。